本と私と魔法使い

「全部あの子が決めることよ…。賛成するわ、当たり前でしょ?」


「そういうもんかねぇ…」
「そーゆーものよ。わたしの子よ?ちゃんと考えて選び取れる子だもの、そこに間違いなんてないわ」


わたしの子というところで胸をはり、笑った。

「あなたはわたしの運命の人よ。…咲音という子を授かって…楽しかったわ、浮気なんて事もしてくれたわねー」


苦い顔をしてその件は悪かったよ、と裕司が言った。


「別にいいのよ。わたしはもう一つの運命と巡り逢えたんだもの。…ね?間違いなんて一個もないわ。全部大切な事よ」



この人と出会わなければ、咲音は生まれなかった。
この人と別れなければ、あの人と出逢えなかった。

無駄なんて、一つもない。


「君は相変わらず難しいことを考えるんだな」

「そう?至ってシンプルじゃない?…あなたは結婚だとか家族だとかに向かなかっただけ。わたしは見当違いしただけのこと、そうでしょ?」



ひとつに縛られることが苦手な彼を自由にしてあげることがわたしの最後の愛だったもの。


さめきった紅茶を口にふくみ、裕司に佐恵子は笑いかけた。


「そうだとしても…、一人娘に無視されるのは寂しいものなんだよ」


裕司は、はぁぁぁ、と深いため息を落とした。


―…