本と私と魔法使い

一緒に暮らそう、だなんて、何考えてるんだか。
緊張していたのか、自然と家につき、玄関でドアを背にすると息が漏れた。

「おかえり…咲」

「和泉、…ただいま。お母さんは?」

「買い物行ったみたい」


そう言って、甘えるように私に抱きつき結んでいた、あのペパーミントのシュシュをするりといとも簡単にとった。
えっと…。

「どーしたの…、」

「寂しくなっただけですが」

「こーゆースキンシップは如何なものかなぁ…と、思うんだけど」


妙に安心する温かさに流されそうになるけれど。和泉の長い指が私に触れる度、たまらない気持ちになるのは変なのかな?

「お父さんと会ってどうだった?」
「一緒に住もうかって、言われたよ」

間髪を容れずに言うと、和泉こっちを見た。和泉の目の色は漆黒だと思っていたけれど、光を受けるとかすかに藍色に見えた。

「一緒に行くの?」

「私、…は。」


あの時から軽蔑していた、一生会いたくなんかないと思っていたお父さんとあった時、心が揺れた。
永遠に元気で、永遠に嫌いな存在だと、勝手に勘違いしていた。現実は、当たり前に老けて、それを見たら、不安が少し残って。


「行くな…」
お願いだから、

抱きしめられたその腕に力がこもる。
行くつもりは、無かったよ。でも、その答えが正しいなんてわからないじゃない。だから、不安なの。


ーガチャ

ドアが開く音がして慌てて振り返った。