本と私と魔法使い

わたしの中で何かが確実になる音がした。

「…“彼の者に負われし呪いを」


わたしは唱えた。
前にアイリスが教えてくれた魔法を。

この魔法はね、“化ケ物”になる人間にかけられた呪いを分かつことが出来るんです。…でも、覚えていてくださいね?

分けた半分の呪いは消えることなく、もう半分は自分にかかるもの。


「何する気?」

男は怪訝な顔をしてこちらを見た。わたしが笑い返してやるとさらに不思議そうに顔を歪めた。


この魔法は救いなんかじゃありません。ただ“化ケ物”に堕ちるまでの期限を延ばすだけの、たいして意味のない魔法ですの。



意味がない?
違う。違うわ。
共有するだけだって、大した意味よ。
ふたりで足掻けるなら、構わない。

息を吸い込んで、叫ぶように言った。

「―引き受ける”」

こうして、わたしは“化ケ物”になった。


―…