本と私と魔法使い

あの女の“化ヶ物”を狩ったあの夜のこと、


「何の用かなぁ?」

「あの女の“化ヶ物”と何か関係があるのかと思って」


千亜は平静を装って夕暮れ色の髪の男に聞いた。口の端から八重歯をちらりと見せて笑う。


「…君のが知ってるんじゃない?だって…君のお母さんでしょ?」


やっぱり、
わたしはそう思って男を睨んだ。顔はわからなかったけれどなんとなく感づいていた。確信したのは、最後にわたしの名を呼んだ声。

くすくす笑う男がまるで嘲笑っているようで不愉快だ。

「良いじゃない、別に。嫌いなんでしょ?お母さんのこと」


嫌いだった。
寂しさを男で紛らわしてネグレクトする母親。施設に引き取られた時のわたしの衰弱状態は酷いものだったらしい。
大嫌いだったけど、時間を頼りに直していくはずだった。あんな女だけど母親だから。


「許してたのに!!」

「きみのお母さんが願ったのはね、時間を戻して欲しい、だって、お母さんはね、自分の力で関係修復することを端っから諦めてたみたいよ?」



ほんとに、馬鹿な親。
男はみてみてーと笑って放り投げたのはわたしのよく知った人だった。


「健くん!!」

「きみの秘密を教えてあげるっていったら、ひょこひょこついてきたバカな子だよ」


わたしは健くんのもとへ駆け寄る。
息はしてることに安心すると、わたしは男を睨んだ。


「どういうこと?何が望みよ!?」


「この子は直に“化ヶ物”になっちゃうんだ」


「…!!…それはサリサしか出来ないハズじゃないの!?」

「僕もサリサと約束してることがあってねー、出来ちゃうんだな、これが」



化け物、になる?
わたしがあれだけ、巻き込まないようにしていた、大切な大切な宝物のような人。