本と私と魔法使い

アイリスは後ろからいきなり抱きすくめられる。

「久しぶり」

聞き覚えのある、優しい…忘れられない声。

「多季」


見なくてもわかる、彼だ。
ふいに涙が出そうになった。
それがどんな感情からくるのかわからなかったけれど。


「何故、ここにいるんですの?…いいえ、生きてましたのね」


「まぁね、少しやり遂げなきゃいけないことがあって…」


変わらない温度の声。
相変わらず彼の腕は憎たらしいくらい心地が良い。
あんなに、
恨んだのに、愛しさが変わらないなんて…皮肉。


「やり遂げなきゃいけないことがあって?…何をしようと、してますの…?!」


ただ微笑むだけで、何も言わない多季。
なんで、あなたはいつも何も言ってくれないのだろう。


「今日は、君が邪魔だから」


そういうと、アイリスの額に口づけを落とした。
倒れこむアイリスの身体を支え、愛しそうに頬をなでた。

「何もかも無くなってしまえば良いのに」

泣きそうな顔でそう呟いた。
2人で愛し合う夢をいつまでも見ることが出来たら良いのに。

その呟きは吸い込まれるように儚く消えた。
どうして、は
もううんざりするぐらい昔から考えてる。