そこからさほど離れていない海は太陽の光を反射してきらきらしていた。
私達は取りあえず砂浜に腰をおろす。


「昔、父さんと母さんと俺で来たんだ。」

真っ直ぐ前を見る和泉はどこか大人びて見えた。


「そうなんだ」


「幸せな家族だって思ってたよ」


「うん」

「思ってたんだ」


消えそうな声が頼りなげに傾いた。波の音が聞こえた。



「悲しかった?」


返事の変わりに肩に温もりが落ちた。さらさら柔らかい和泉の髪が私の顔にかかる。信じてたものが崩れてしまった時の悲しみは知っているから、同じ痛みかは知らないけれど。
日が暮れるまで、私達はずっと海を見ていた。
見ていても、飽きることはなかった。
不思議なくらい綺麗な海だった。


ー…