本と私と魔法使い

「嫌な予感がするんだ…和泉さんは行かなくて正解だったと思う…」


羽津は探る様に遠くを見渡した。
多分だけど、と羽津くんは付け足した。

ー…

ひゅうひゅう、すきま風の音がする。音がする度に、その方向へ視線を巡らせる。何もないことを確認すると、俺は息を吐き出した。

最近、変な事が相次いで学園で起こっている。ガラスが割れたのは化ケ物の仕業だとしても、しかも動きの鈍くなる昼間に…何故?
そんな事を考えていると、



「後ろが、隙だらけー」



後ろからの声に慌てて振り返るが、ゴッと蹴り飛ばされた。

「…ッ、ハッ……くっ」

背中にもろに入ったらしく、ジンジンその場所が痛み始める。


「君があの子の騎士くん?…随分、弱いんだねぇ…」

軽そうな印象を受ける、夕暮れ色の髪の男は口の端を持ち上げて笑った。

「ンだと?…ッ、てか、お前は誰だよ…!!」


歯を食いしばった時に口内も切れたらしく、鉄の味が広がる。そんな様子を面白そうに顔を歪めた。


「僕はね、多季。…ていうか、君さ、名前を聞きたいんだったら自分から名乗るものじゃない?」