和泉さんは私からやわらかく目をそらすと高岡さんに言った。

「え、じゃあ佐伯くん気持ちが無いのに彼女と居るのかしら」

「どうなんだろうねぇ。でもなんだか全部決められちゃってて可哀想な話よねぇ」

そこまで話すと高岡さんは「タバコ吸いたいわ」と言い出したので、私たちはフロアへ戻る事にした。

エレベーターの中で先輩たちの背中をぼんやりと見ながら、私は彼女の事を聞いた時の佐伯くんのよそよそしさを思い出していた。
そしてこの時代に、そんな話があるのかという驚きと、彼の運命についての想像を絶する感じが私の頭をいっぱいにした。

そしてまた例のさざ波のようにおしよせる感覚に襲われていった。