大江戸妖怪物語




銀髪娘「あら、刃派のお客様かしら」

銀髪娘は優しい声で、絡新婦に語りかけた。
僕はビクビクしながら扉の後ろ側に立って、息を殺す。


釛「えぇ、少し神門に用事があったのよ。蔵にいると思ったんだけど、いないのかしら」

それは“釛”の声だった。

あの狂気に満ちた絡新婦の声ではない。


少しずつ銀髪娘と釛が蔵から遠ざかっていく足音が聞こえた。


銀髪娘「さっき出かけたんですよ。まだ家には帰って来てないみたいで・・・おっと、手が」

そういって銀髪娘は持っていた小さい帯飾りを落とした。







チャリン







実はこれが僕への合図だった。
帯飾りを落としたら、外に出ろという風に言われていたのだ。

僕は扉から顔を半分だす。釛は銀髪娘のほうを見ており、僕には気づいていないようだった。
銀髪娘は『今だ』と目で僕に合図する。

抜き足差し足・・・。
僕はゆっくり蔵から出た。


釛「あなたはどなたでしょうか?神門の、ご親戚かしら?」

釛は銀髪娘に首を傾げながら問いかけた。その間にも僕は地道に地道に逃げる。

銀髪娘「私は神門の妹です。兄が迷惑かけてすみません」



(あ、そのネタは・・・)


僕は銀髪娘が大変なことを言っているのに気が付いた。
だって、僕は・・・。あのときに・・・。




釛「あらぁ?おかしいわねぇ・・・」

釛は反対側に首を傾げた。

ま、まずい。



足が動かない。







釛「神門は“一人っ子”って聞いたのだけれど」