男は筆と硯を持って縁側の隣の小さな書斎の座布団の上に腰掛けていた。





さて、なにから書けばよいのだろうか。いざ、ここに座り筆を握り書こうとすると書けない。





書きたいこと、伝えたいこと。心に手が追いつくことができない。





たくさんありすぎて、混乱する。





男は溜息をついて外を見た。喧噪の江戸、しかし静か。





その静けさというものが、外面的なものなのか内面的なものか、それは男自身にもわからない。




さて、何を書こう。




・・・・・・まず、運命というものを信じざるを得なくなったあの瞬間。





あれから書いていこう。




男はよし、と意気込むと筆を走らせた。