ボーっとして歩いていると、路地の奥のほうから瓦版をばら撒いている人を見つけた。

風が吹き、橋で佇んでいた僕の元にも一枚飛んできた。

『江戸大殺人、犯人何処』
と書かれたタイトルだった。そこだけゴシップ文字で、強調したいのが分かる。どんだけアクセント付けたいんだ。

僕は記事に目を落とした。

『最近江戸の町で、謎の怪事件が多発している。被害者は全員男。体中の血液を皆一向に失っていた』

・・・体中の・・・か。僕はその死体を想像し、なんだか気持ち悪くなった。僕だって男だからね。こんな目にあわされたら堪ったもんじゃない。

僕はその瓦版を懐に入れ、また町を歩きだした。
しばらく川沿いを歩いていると、僕はある一つの店に入った。

その店は、『甘深楽』という店で、餡子料理を専門に出す店だった。

?「あら、神門くん!いらっしゃい!」

神門「こんにちは。アズ姐」

藍色の髪を結わいでいるこの人はアズ姐。この甘深楽を一人で切り盛りしている。
本名は小豆と言うのだが、僕より年上だと本人も言ってくれていたので、アズ姐と呼んでいる。

小豆「神門くん、来てくれて嬉しいわ!私、神門くんのこと心配してたのよ」

神門「え?なんで?」

アズ姐が運んできた宇治金時餡子パフェを頬張りながら僕は聞き返した。いつもアズ姐は僕には無料で料理を提供してくれる。

小豆「昨日、火事があったでしょう。それが神門くんの棲んでいる地区だと聞いてびっくりしちゃって。家は、大丈夫なの?」

あぁ、なんて優しいのだろう、アズ姐は。本当に、お嫁さんにこういう人が来てくれたらいいのになー・・・。

でも僕は年上NGだしなぁ・・・。基準を変えるか?
いっそ基準を変えてしまおうか、紅蓮神門よ。

小豆「・・・ちょっと、聞いてる?家は大丈夫だったの?」