大江戸妖怪物語



「雪華!また眼球の件で死んだ人が出たって!」

僕が雪華にその事実を伝えたのは花火大会当日だった。死体は死後四、五日が経過しており、特に目の周りが激しく腐っているらしい。

「四、五日前となるとあの影が襲ってきたあたりか・・・。しかし、往来の多い江戸で、何故そんなにも長く発見されなかったのだろうか」

「それが、結構裏の路地のところでしかも生ゴミが大量に捨ててあるところで見つかったって。死臭がして、探してみたら・・・ってわけ」

しかし、江戸の人々は祭りのせいなのか、この前みたいな野次馬は起こっていないらしい。それどころか活気がある。

「神門、私たちは現場に行ってから大会会場へ向かうことにしよう」

「うぇぇ、直前に死体見るって・・・」

「私たちは『閻魔王様直々に命令を受け邪鬼退治を行なっている』者だろう?」

「・・・わかりました!行きゃいいんでしょ行けば!」

僕らは日曜日の昼下がりの午後、現場へと出かけた。やはり現場に近づいてくると野次馬も少しいたが、すこし覗いて皆会場へと向かっていった。

「あ、あの人・・・」

僕は現場でお馴染みのあの人を見つけた。身長が高く、周り以上にイケメンなその人は事件現場の禍々しい雰囲気を一人だけ弾くようだった。

「不動岡さん!」

僕の声に振り返ったその男、警察のトップ、不動岡。
藍色のその髪は今日も切り揃えられ、左側に編まれた三つ編みも乱れがない。心も体も潔癖なその男は僕と雪華を見るとこちらへ近づいてきた。

「とんだ野次馬だな。警察犬より嗅覚が優れているのが来たよ」

不動岡産は呆れながらも呟いた。

「情報を頂きに来たわ。それも極上のね」

相変わらず雪華と不動岡さんは仲良く話している。不動岡さんの服はピタッとした警察のジャケットにスキニーなパンツ。イケメンすぎる・・・。

「これといった情報は出てない。申し訳ないがね。まったく忙しいものだ」

不動岡さんは眉間に皺を寄せた。

「警察と裁判官と・・・二足の草鞋は下手に履くものではないな」

藍色の髪が揺れる。

「え?不動岡さんって、裁判所の裁判官やってるんですか!すごいですね!家庭裁判所ですか?もしかして最高裁?!」

僕の質問に不動岡さんは頭の上に『?』を出した。

「・・・もしかして雪華、神門くんに言っていないのか?」

「特に今は言う必要もないでしょ」

どうやら僕に内緒の秘密事項があるらしい。ちょっとなんかそれ・・・ヤダな。


「まぁそれは置いといて。今回の事件は前と変わらないってことかしら?」

「そうだな。たく、これから花火大会の警備で忙しいってのに」

不動岡さんは縄を指でクルクルと巧みに回した。さすがイケメン、様になっている。

「不動岡さんも行くんですか?警視庁トップが直々に?」

「仕方ないんだ。こればかりは」

「慰霊祭だから?」

雪華が聞くと不動岡さんは首を縦に振った。

「慰霊祭?今日は花火大会じゃないの?」

僕が聞くと雪華はどこからか花火大会のチラシを取り出した。

「花火大会とは慰霊の為・・・鎮魂を理由とするものがあるのだ。おそらくこの大江戸花火大会もその類だろう」

「だから悪い邪鬼らが寄り付くんだ。まったく、警備の仕事は俺の仕事じゃないってのに・・・」

不動岡さんは嫌そうに顔をしかめた。