「―――――もういいぞ」
雪華に言われたのは何分後くらいだろうか。
通りに出るとそこには何もなかった。刀を持ちながら佇んでいる雪華以外には。
「たく、まだまだだな」
雪華はそう言って刀を鞘に収めた。
「雪華は強いよ。・・・少なくとも僕よりかはね」
僕は視線を落としながら話す。
「僕はダメだ。確かに毎日の鍛錬の成果は少しは見られるけど、・・・でも、結局雪華に助けられてしまう。ほんとに自分でも嫌になるよ」
自嘲気味に僕は言った。
「―――――まだまだなのは私の方だ」
「・・・え?」
「閻魔王様の遣いとある者が邪鬼相手とは言えど・・・」
雪華は諦めたように呟いた。その後雪華がその話に触れることはなかった。
「全く、甘いものを食べたが、そのエネルギーが総じて消費されてしまった。影を操る者め、成敗してくれる」
雪華は苛立つ声を抑えながら、眼力から怖い閃光を放っているようだった。
そして早歩きで歩き出す。
「あ、待ってよ、雪華ぁぁ!僕、二日酔いで頭がぁ・・・」
雪華の後をフラフラしながら追いかける僕。頭は痛いが、こうして雪華と一緒に入れることに少しながら幸せを覚えたのは、不自然だろうか?
その光景を妬ましく思う輩が一人―――
******
「ほんと影って使い物にならないわ」
女は煙草を吸い、そして煙を吐き出した。
「神門の・・・おいしいだろうにねえ♡」
女は手に持っている丸いものを口に放り込んで噛みしだいた。
「それにしても、あいつのアレを手に入れることができてよかったわぁ・・・。まさか閻魔のエネルギーを持つものを知っていたとは」
咥えていたタバコを地面に落とし、新たな煙草を咥えて火をつける。
「関所で待ち伏せしてた甲斐があったわね。では試しにコイツのを入れてみるか」
女はそう言って箱に入っているものを手にとった。そしてそれを自らの眼球に押し込み、交換した。
「・・・おや、ここにも神門の情報が・・・。・・・なんだあいつ、昔こいつに虐められていたのか。ははは、愉快愉快。さてと」
女はまた元の眼球に戻した。
「閻魔のアレを手に入れることができるなら・・・。私の体は不死身となるだろう・・・。さすれば、我が敬愛する白薔薇に継ぐ大妖怪になれるであろう・・・クククク・・・」
不気味な笑いを浮かべながらまた煙を吐いた。
「どうも、ごきげんよう」
その女の前を、近所の娘が通った。
「・・・まぁ、メインディッシュの前の前菜でもいただきましょうかね?」
女はつぶやくとその娘の肩を掴んだ。
「え?」
娘は驚いたように振り返った。その声が悲鳴になったのはその直後である。
「いただきます♡」
烏の大群は何を思ったのかけたたましく鳴きわめいた。野良猫は啼き逃げていく。
「そろそろ私自身が行かなくてはならないか」
******
「烏が五月蝿いな」
雪華は後ろを振り返りボソッと呟いた。
「そうだね。残飯でもいっぱいあるのかな?」
「知るかボケ。汚らわしいことを言うな」
僕と雪華は家へと戻った。


