「では、これで帰ります。花火大会、楽しみにしてますね」
会長の家をあとにする。
「・・・神門♪」
道を少し行ったとき、後ろから聞こえた甘い声。ふわっとした匂いと共に僕の左側に栗色の髪の毛が見えた。
そして雪華のこめかみに血管が浮き出たのを僕は見過ごさなかった。
「神門♡ひ・さ・し・ぶ・り♡」
僕は眸にハグされていた。
(ヤバイヤバイヤバイヤバイ。もうときめくとかじゃなくて、雪華が怖い!!!!)
「や、やぁ。眸、ひさしぶり、だね・・・」
カミカミに、たじろぎながら答えた。
早く、逃げよう。逃げたい。
「・・・なに?アンタもいたの?」
(やめてぇぇぇ!雪華に喧嘩売らないでぇぇぇ!)
「いて悪いか?」
皮肉るような蔑むような雪華の笑み。
「ええ悪いわ。神門に悪影響を及ぼすわよ」
「私の方はまだマシじゃない?あなたは悪影響どころじゃなく、すでに汚染しているわよ」
「ふん、口うるさい蠅ね。ま、今の私はアンタに用はないの」
眸は冷たい声で淡々と話していた。しかし僕に対してだと猫なで声に変わる。
「ねぇ神門ぉ。私、今から神門の家に行きたいなぁって!ちょっと話したいことがあるの」
「え、えぇ?!?!」
雪華の顔を恐る恐る見る。明らかに怒っていた。
「あ、えぇと、えぇと・・・」
断る絶好の理由が思いつかない。僕がたじろいでいると眸がにこっと笑った。
「OKね!じゃあ、行きましょう!」
「あ、ちょっとぉ!!」
眸は僕の家の方へ歩き出した。
「あの、雪華・・・ごめん」
「死ね」
罵詈を浴びせられた。それほど雪華は怒っていた。しょうがないじゃん理由がないんだからぁ・・・(泣)
僕、眸、雪華という異色の三人組で街を歩く。僕の右には眸、左には雪華。はたからみえば女遊びしてる人間にしか見えない。
「もう、最悪・・・」
僕がそう呟くのにも理由があった。それは殺気が激しいこと。僕の両隣からものすごいドス黒いオーラが出ている。二人は一言も発せず、僕の隣に陣している。
「・・・あ、あはは。なんか暗いね!じゃあしりとりやろう!しりとりの『り』からね!えっと・・・『リンゴ!』はい、眸、『ゴ』だよ!」
「ゴミのような銀髪女」
(・・・・・・)
僕の背中に汗が流れた。
「では、次は私か。殴り殺したい栗毛髪」
(えぇ?!ここでまさかの僕の番?!)
「『み』ね・・・。えっと、耳!」
「ミンチにしてやりたい」
「イライラするうざいやつ」
「・・・つみき」
「斬り落としたいその首」
「美人だと思い込んでるらしいけどタダのぶりっ子で気持ち悪い最低な野郎」
「ストオオオオオオップゥゥゥゥ!!」
あまりにもグロテスクなしりとりを打ち切る。
「いやいや、グロすぎでしょ!!しりとりじゃなくて殺人予告になってきてるからね?!って言ってる間に家着いた・・・」
「じゃあ、上がるわね。あぁ、神門の家って久しぶり!」
そう、ここからが修羅場の始まりである。いかにして、二人の抗争を止めれるかが重要な鍵になると思う。
「うわぁ、懐かしいぃ~!」
僕が考えこんでいる間にも、眸は居間に上がっていた。
「あら、どなた?」
母さん登場・・・。なんかややこしくなりそうな気が・・・。ハッ!どうしおよう!このまま母さんにも暴言を吐いたら・・・!
母さんが、キレる・・・・・・。
「お久しぶりです、ええと、神門のお母さんですよね?私、作間眸です」
「・・・あぁ、眸ちゃん!大きくなって・・・。雰囲気変わってわねー!」
「まぁ・・・もう大人になったので!髪も染めて、心機一転みたいな!」
「あらあら、いいわねぇ。お父さんとお母さんは元気かしら?」
「丹波にいます。江戸に出てきたのは私だけで・・・。出稼ぎってやつです」
眸の両親は、仕事の都合で丹波に行ったと聞いた。


