「いやぁ!祭り!祭りだねえ!」
このオジさん、ノリノリである。まだ昼頃だというのに缶ビールを開けて飲んでいる。
「どうだい?神門くんも一杯?」
「い、いえ、結構です!」
オジさんは何故か飲んでいたビールを差し出してきた。間接キスであっても、したくない。すみませんオジさん。
「たっくね~、嫌なことがあっても、この祭りだけが癒しだよ!女房は昨日飲んだくれて今朝はずっと寝ちまってるし・・・」
やってらんねえよ~、と言いオジさんはビールをぐいっと飲んだ。喉仏が上下し、顔が赤くなる。
「あの~、すみませんが、もしかして苗字は・・・」
「俺かい?俺ぁ、佐久間だよ」
(アンタが佐久間さんの旦那かよッ!!!)
佐久間のオジさんは別の缶ビールをプシュッと開けた。
(昨日奥さんが愚痴ってたそうですよ!他所の人妻にバカヤローとか言われてましたよ!!)
「女房とはうまくいかねえもんよ。毎日喧嘩ばっかでぇ。怖ぇこった。神門くんも可愛い女房ちゃんいるけどよ、結婚すると尻に敷かれるぜ?女は化けるぞ?」
オジさんは雪華を見てアハハと笑う。
(いや、そういう関係じゃないんだけど・・・。結婚すると化けるって・・・雪華はもう化けてます。もう尻に敷かれてますぅ!)
「さてと、提灯の準備でもしてくるか。神門くんは特設ステージを作ってくれると助かるねぇ」
「はい!じゃあやってきます!」
オジさんはスキップしながら倉庫へ向かった。そのまま石に躓き、顔面からコケたオジさんに、苦笑いをしてその場を去った。
僕はステージ作りに取り掛かる。大量の檜の柱が無造作に置かれており、それを順序建てて組み立てていく。
「おおッ!嬢ちゃんすごいねぇ!」
ステージ作りをしている場所に向かい、一番初めに聞こえた言葉はそれだった。こんな男臭い場所にいる嬢ちゃんはもちろん・・・。
「たいしたことではい」
・・・
(・・・雪華だね)
「雪華、何してるの・・・?」
「ヒューヒュー!旦那の登場かいッ?!?!」
「やめてくださいよ、こんなのが旦那なんて死んでも嫌です」
お願いやめてくれ、雪華。なんだか僕泣きそう。
「・・・・・・で、雪華は何してるの?」
「ったく、見ればわかるだろう。材木に釘打って固定してるのだ」
雪華は作業に戻る。雪華は口に釘をくわえ、その釘を左手の指先で持ち、材木に鋭利な部分を向ける。そして右手でもっている金槌を大きく振り上げた。そして一気に釘の平らな部分に叩きつけた。すると釘は一瞬で材木の中に吸い込まれるようにして刺さった。
「えええええええええええええええ?!?!?!??!?!」
「嬢ちゃんはすげぇや!俺でもここまで力ある大工は見たことねえぜ!」
「しかも平行に刺さっていやがる!神業だ!」
(僕にとってはただの化物にしか見えないんですけど?!)
「神門くんも負けてらんないねぇ!ほれ、釘と金槌!」
「あ、ありがとうございます」
(確かに雪華には負けてらんないな、よおし、振りかぶって・・・)
釘の鋭利な部分を材木に当てる。そして思いっきり金槌を振り下ろした。
ガンッ
「っっ~~ッッーーーーー!!!!!!」
僕が振り下ろした金槌は綺麗な弧を描いて、僕の左手へとクリティカルヒットした。挙句に、以前できた肉刺も潰れてしまった。よく一石二鳥というが、これでは『一槌二損』だ。
「・・・神門、私が思ったことをそのまま口に出しても良いか?」
「~~~~ッッな゛に゛ぃ゛~?」
「お前馬鹿だな」
「心配してくれ!」
時間が経つとジンジンしてきた。
(うげッ!血豆!)
あたふたしているとそれを見かねたのか雪華がやってきた。そして僕の左手の裾をつかみ集会所の中へ連れて行かれる。


