「上達したな、神門」
微笑んだ雪華の顔。その顔は眩しい夕焼けの中、右頬に赤みを帯び、美しかった。
「神門ー!雪華ちゃん!晩御飯ができたわよ!」
母さんが縁側に出てきて、僕らに声をかけた。
「今日の夕飯は、天ぷらうどんよ」
「やったー!てんぷら♪早く食おうぜ!」
居間へと僕らは向かう。
「あれ?」
居間の座布団に座ると僕の横に置いてある、あるものに気づいた。
「母さん、これ何?」
それを広げてみると、『祭』とかかれた回覧板。
「あんた忘れたの?一週間後の日曜に、祭りがあるのよ。明日準備があるから集会所に行きなさいね。あんたも準備に加わるって、一年前に言ったじゃない」
「一年前のことなんて覚えてないです・・・」
「ほう・・・」
その話題に食いついたのは雪華だった。
「祭りか。盛り上がるな」
「雪華ちゃんは江戸に来て初めてのお祭りね!いっぱい楽しんでね!花火とかいっぱい上がるし、スターマインなんかとっても綺麗!」
「スターマイン?私の星という意味か?」
「直訳しないでいいから」
「そっか。雪華ちゃんスターマインしらないか。スターマインていうのはね、たくさんの花火が一斉に打ち上げられてとても綺麗なの!」
母さんは雪華に黄色い紙に赤字で印刷されたチラシを雪華に渡した。
「大江戸花火大会・・・ね」
「雪華ちゃんも彼氏がいればね~!こんなのでよければ一緒に行ってやって」
“こんなの”の時に指を指された。どうやら“こんなの”は僕のことらしい。
「いえ、結構です」
雪華は僕に目をやることもなくチラシを見ながら言った。
「私もお父さんがいればね~!うふふふ!」
母さんは顔を赤らめて身を捩らせながら言った。熟女が何をしているのだろうか。
「母さん・・・父さんは」
「知ってるわよ!あの人はもういないものね!だから妄想して楽しんでるのよ♪」
笑いながら天ぷらを食べる。僕は母さんの痛みがわかる気がした。
「あら、こんな時間。今日は佐久間さんと会う用事があるのに」
母さんは歯を磨き、鞄を手にして玄関へ向かう。
「佐久間さんの奥さんか。何しに行くの?」
「えっと、屋台船で豪華クルーズ・・・じゃなくて、さ、佐久間さんの旦那さんのことについて話すの」
「旦那さんのことについて聞くために豪華クルーズ行くの?」
「ごッ・・・豪華クルーズなんて行かないわよ!じゃあ行ってくるわ」
母さんは転げるように(ていうか転びながら)玄関から飛び出した。
「墨田川かな、ここだと・・・」
「なあ神門、お父様の件だが・・・過去に何かあったのか?」
雪華はうどんを食べ終わり、僕に聞いてきた。
「・・・」


