「まぁ、吸血事件の時は妖力身につけてなかったから、それは公務執行妨害に入るのだろうけど」
「ちょ・・・それは言うなって、雪華ぁぁ」
「ほう・・・いい度胸だ」
「怖いっす!不動岡さん!」
不動岡さんは無表情でも怖いが、笑っても怖い。何か裏がありそうな感じで・・・。
「では、俺は戻らなくてはな。何かあったら頼るといい」
「そうするわ。ありがとう、秦広王さん」
「その言い方はここではやめてくれないか・・・。」
「まあ言いじゃないの。どっちにしたって変わらないことは事実でしょ」
「変わってないな・・・。ではまた」
そういうと不動岡さんは後方宙返りをしながら屋根から飛び降りた。
「ふッ・・・不動岡さん?!墜ちましたか?!死んでませんか!?」
「あの男だから大丈夫だろう」
下を見ると、誰もいなかった。
「では、私たちも帰るか。裏道は見たところ人通りが少ないから、そちら経由で帰ろう」
僕たちは屋根から裏道へとジャンプした。
「あのさ、雪華・・・」
「何?」
「不動岡さんのことなんだけど・・・」
胸がチクチクする。
「知り合い・・・なの?」
「まあな。それなりに、色々あってな」
ぶっきらぼうに雪華は答える。
「恋人・・・とかじゃないよね」
「ありえんだろ。アホか」
雪華にきつい言葉を言われながらも、なぜか胸の痛みは治まっていた。
(病だったら嫌だな・・・)
そう思いながら僕たちは家に向かった。
「きゃっほー!神門くん!おひさおひさおひさぁああああん!」
栗色の髪の乙女がこちらへ駆けてきた。視界に入ってすぐに分かった。眸だ。
「お久しぶりっていったって・・・。この前会ったじゃん」
「まあ気にしないで☆それより、荷物届けてくれたかしら?」
「荷物・・・?・・・あ゛」
僕は家に置かれている風呂敷包みを思い出す。
「まさか・・・忘れてた?」
僕は口角を引き攣らせる。
「あっと、えっと、・・・・・・ごめんっさーいいい!」
僕は土下座をした。頭を地面にこすり付けて謝る。
「えーッ!まじかぁ・・・。届けといてって言ったのに・・・」
眸は至極残念そうな顔で頭を手で押さえた。
「でも・・・」
眸は顔に手を押し当てながら言った。
「これでまぁ・・・」
眸は少しニヤニヤしたかのように思えた。
「いつか、届けてね❤」
眸はニコッと笑った。満面の笑みは僕の心をキュンッとさせる。
「ったく」
それを見かねたのだろうが、雪華が僕と眸の間に割って入る。
「そもそもあなたが届ければよいのではないか?あの時も托鉢僧はあなたの視界には入っていたはずよ。面倒くさがらず届ければよかっただろう?今、神門の家に荷物がある。それを持って帰ればよい」
雪華は眸に向かって言い放った。
「あんた誰よ?この前も神門の周りを蠅のように飛び交っていたけれど」
眸の声は僕に対する声とは全く違う。
しかし、雪華は蠅という単語にキレたのか、重々しいオーラを出していた。
「蠅・・・だと?」
雪華の顔はまるで・・・いや、言葉にするのもおっそろすいいいい!
「そ。蠅。耳が悪いの?あんた」
雪華はかなり頭にきているようだった。ふと雪華の掌を見ると・・・つ、爪が食い込んでいる。なぜか空の雲行きは怪しくなり、雷が鳴り始めた。
(うっそ!と、止めなきゃ!でもこの雰囲気・・・止められない)


