翌朝、街中が大騒ぎ・・・。
普段から遅起きの僕は外の喧噪めいた騒ぎに起こされた。
「神門、人が殺されたらしい」
事件を知ったのは、居間にいる雪華が告げた時だった。
「・・・また目を・・・眼球を抉られていたそうだ」
「晴朗の事件と瓜二つじゃないか」
「神門・・・これは・・・」
「妖怪の匂いがするってわけか・・・」
雪華は頷いた。
「試しに行ってみるか?妖怪の手掛かりを探すために」
「いや・・・でも、野次馬がいっぱいいて見れないでしょ・・・」
実際は見たくなかった。晴朗の顔を見ても不気味と感じていた自分が、また眼球なしの死体なんてみたくない!
雪華は足を指差して言った。
「何のための妖力だと思っているんだ?」
「・・・・・・ですよねー・・・」
僕と雪華は家を出て、事件現場へと向かう。もちろん通りからではなく、屋根伝いに。
家を出てすぐに人ごみはできていた。しかし事件現場はもっと先だ。普通に歩いて行ったら辿りつけない。
民家の屋根や長屋の屋根、木の枝・・・。僕らはまるで忍者のように駆け巡った。そして事件現場すぐ近くの民家の屋根に到着。腰を屈め、下から見えないようにする。死体は回収されていたが、血痕は残っていた。
「あれは頸動脈を斬られたな。」
雪華は夥しい血を見ても平然としながら呟いた。
「首・・・を?」
よほど鋭利な刃物で切り付けられたのか、血飛沫が凄かった。
「しかし・・・死体を回収されてしまっているようだから、証拠はわからないか・・・」
雪華は顎に人差し指を当てて、考え込む。
「仕方ない。戻るか」
雪華がそう言って少し歩き始めた頃だった。僕の首の横に銀色の光る刃が向けられたのは。危険な色を放つそれは、僕のすぐ真横にある。
「動くな、不審者。何者だ」
僕は恐る恐る振り返る。
そこには端正な顔立ちをした男が一人、僕の首に刀を突きつけていた。
「ッ・・・!あなたは・・・」
このサラサラかつ切り揃えられた髪の毛に三つ編みのこの男は・・・。
「またお前か・・・。知っていると思うが、俺は江戸の警視庁総監、不動岡。不動岡星煉だ。前言ったこと、覚えているか?」
その時僕は、釛が起こした事件の際に、不動岡さんに言われた言葉を思い出す。
―――「あまり捜査の妨害をしないほうがいい。逮捕されても知らぬぞ。今回は許してやるが、次はそうはしない」・・・—――
僕の額からサラサラと、且つ気持ちの悪い冷や汗が滴り落ちる。
「た・・・タイーホですか・・・?」
「覚えていてやったのか、確信犯だな。よし」
不動岡さんは腰から手錠と縄を取った。
「え、いや、ちょっと・・・タンマタンマ!!」
僕は不動岡さんに行動の制止を求めた。
「何言っている。捜査妨害、・・・そして、吸血事件と言い眼球事件と言い・・・もしかしてお前が関わっているのではないだろうな?」
「滅相もござーせん!!その逆ですよ!」
「言い逃れしようとしてもそうはいかん」
僕の包帯を巻かれた右手が不動岡さんに掴まれる。
「痛いっす!肉刺が!昨日の肉刺が潰れるぅぅ!」
(い、嫌なんですけど!僕が逮捕されたら、刃派はどうなるの?!どうしよう母さん!)
母「神門が捕まったから食費が浮いたわー(^^)オホホホ」
「なっんでっやねーーーーん!!」
僕は自分の妄想に出てきた母さんに突っ込んだ。
そんな僕を不動岡さんは、哀れなものを見るかのように見つめた。
「おや、不動岡ではないか・・・」
後ろから雪華が話かける。
「・・・その声は・・・」
不動岡さんは振り返った。


