大江戸妖怪物語



所変わって、その晩・・・江戸のとある場所にて―――


「ひぃぃぃぃ!!来るな、来るな化け物ぉぉぉ!!!」

暗闇の中に響く声。

「来るなって言ってるだろ!」

「オマエミタダロ?ナカミタダロ?」

「・・・ッ!あぁ見たよ!俺は見ちまったよ!でも悪気はねぇんだ!」

「オマエミタダロ?ナカミタダロ?」

「ぐっ・・・」

男は逃げる。

「くそうッ・・・なんでこんな目に・・・」

「コンナ目イラナイナラ、モラッテアゲヨウ」

曲がり角を曲がろうとした瞬間、男は首を掴まれた。その鋭い爪で、男の首からは紅の雫が音を立てて滴り落ちる。鮮血は男の体を伝う。

「コンナ目イラナイナラ、モラッテアゲヨウ」

もう一度物ノ怪は囁く。

「嫌だ・・・嫌だよ・・・!誰か・・・こんな目に・・・嫌だ・・・」

「ソノ目オマエノ目、イラナイナラ食シテヤルヨ」

物ノ怪は左の手で男の左瞼を極限まで開かせ、右手でスプーンのようなものを男の左目へ刺した。

「ぎゃああぁぁあああああああああ!うぐぅおうあああああああ!」

グリグリと抉られている音がする。視神経が千切れていく音がする。

「うああああああああああああああああああああ!嫌だ嫌だ嫌だああああああああああああああああ!」

物ノ怪は不気味な嗤いで眼球を攻める。

「もういっそ・・・殺せえええええええええええええええええ!!」

男は左目に走る痛みの中、絶叫した。

「リョウカイシタ」

物ノ怪は男の心臓をその長い爪で一突きした。口から鮮血がドプドプと流れ出る。男は少しの間痙攣していたが、すぐに大人しくなり、永遠の覚めない眠りへついた。

物ノ怪は大人しくなった男の左目を抉り取った。そして右目も同様に抉り取る。

「オイシイオイシイゴハン・・・オヤツ・・・。マダマダフエルカラ・・・。トテモタノシミ。江戸ハ食材ノ宝庫・・・。殺シテモ殺シテモ人ガ溢レテクル」

物ノ怪は栗色の髪を棚引かせ、呟いた。

「早ク食シタいなぁ・・・。・・・・・・神門くんを❤」

物ノ怪は抉り抜いた目玉を口に放り込んだ。グチュグチュ不快な音を立てながら、水晶体やら何やらゼリー状のモノを噛み、ニタリと笑った。

人間の姿に戻った物ノ怪は、夜の江戸へと消えていく。