大江戸妖怪物語


僕は疲れがたまっているようで、すぐに眠りに落ちた。










「・・・神門。起きろ」

「・・・ん・・・何?雪華・・・」

時計の針は夜の二時。こんな時間に・・・なんなのか。

カチャリ

「何・・・?こんな暗いのに・・・ッッ!!」

僕の喉のすぐ前に、雪華は刀を突きだしていた。僕は言葉を失う。雪華は無言のまま僕に向かって刀を突きだす。刀は光で反射し、不気味な輝きを纏う。

「な、何で?雪華・・・これは・・・・・・」

雪華の紅玉のような目が僕を見据える。月明かりに反射する目は憂いを帯びていた。

「忘れないで」

雪華は消えそうな声で呟やいた。

「私のこと・・・忘れないで」

その言葉はか細かった。

(泣いている・・・?)

「何・・・行ってるの雪華。忘れるって・・・どういうことだよ」

雪華は表情を変えない。冷たいまなざしで僕を見下ろしている。悲しそうな顔・・・

「・・・忘れたの?忘れたのか。もうお前などは・・・」

雪華は思い切り刀を振り上げる。僕は慌てて避ける。刀は僕が寝ていた布団に直撃し、そして布団は凍てついた。
僕の顔は青ざめる。

「やめろ雪華!何して・・・」

「お前が忘れたから。すべて忘れたから。すべては記憶が・・・砂の・・・碧き・・・けいッ・・・・・・」

雪華の声の後半はノイズがかって聞こえなかった。

僕はよたつきながらも、枕元に置いてあった太刀を手に取る。

「雪華・・・何やってんだよ!」

僕が太刀を横にし、雪華の攻撃を防ごうとした。




シュン・・・





(え・・・?)

雪華の刀は、僕の太刀をすり抜けた。僕の顔を目がけて振り下ろされる刀。
僕は目を閉じた。