「ぜぇ、ずぇっが!だずぐぇで~!(せ、雪華!助けて~)」
「何語だまったく。日本語を喋れ。しかしまぁ、こんなザコ相手に命の危機に晒されるとは・・・いやはや情けない」
雪華は右手を額につけ、呆れたように溜息をついた。
「氷柱散華」
雪華は独り言のように呟いた。すると雪華の周りに氷の礫ができ、僕の後ろの影目がけて飛んできた。木刀は僕の首から外れ、僕はやっとまともに呼吸できた。
「ぜぇ・・・ぜぇ・・・。苦しかった・・・」
僕は体全体を使いながら呼吸をした。酸素ありがとう。
雪華は脇差を取り出し、凍てつかせた。脇差は弧を描き、木刀を持った影へと振り落された。影は木刀でガードするものの、脇差に触れた面から凍っていき、とうとう木刀は氷の花びらが舞うように散った。
そのまま影へ脇差は斬りこんだ。影は消え、後に氷のみが残った。
残り2体の影は雪華のブラックオーラ(威圧感)に圧倒されているのか、後退りしている。
雪華は顔だけをそちらの方に向けた。しかもかなり恐ろしい表情で。
「おい・・・」
雪華はゆっくりと影に近づく。
「さっさと失せなさい・・・さもないと・・・どうなるかしらね?」
その顔は真顔だ。しかし、この威圧感。地面が揺れそうなほどだ。
影は観念したのか、スゥーッと消えて行った。
「せ・・・雪華ぁ・・・」
僕の脚はガクガクしていた。まだ喉の違和感は消えない。
「あんなザコ相手にビビるんじゃないわよ。まったく、お前も戦い慣れてないな」
「戦いに慣れたくないです!慣れないほうが全然いいです!!」
僕は太刀を背中へしまった。雪華も脇差を鞘へと戻す。
「不穏な気配がしたものでな、出てきたらこのザマだ」
雪華はあたりを見回す。まだ人は通りにはでてきていないが、先ほどに比べて人の気配が増した。雨は小降りになっており、僕の着物をさらに濡らした。雪華の髪も少し濡れている。
やがて、遠くに青空が見えた。
僕らは家へと戻った。
―――――――
* * *
「な~にやってんの?」
路地に佇む女は言った。雨は止み、ぬかるんだ地面は光で照っていた。
「せっかくアイツを殺れるチャンスだったのにね」
女は煙草をフゥーッとふかした。
横には影2体。
「ほんとにザコね。私のような素晴らしい者に仕えているというのに、その失態はあり得ないわ。戦わずして逃げるとは」
女は煙草を右手の人差し指と中指で持ち、はぁーと白煙を吐く。
「さてと」
ズチュッ・・・ザクゥッ・・・
影2体は女の長い爪で一突きされ、消えた。
「使えないのはいらないしぃ」
女は太い路地へと出る。
「じっくりチャンスみましょうかぁ」
女の爪は元に戻っていた。女は不気味な笑みを浮かべると、雑踏へと消えて行った。


