僕の後方で、風を裂くような音が聞こえた。振り返ると・・・誰もいない。
(気のせいか・・・?)
僕は前を向いて歩き始めた。
ぴちゃ・・・ぴちゃ・・・
ぬかるんだ地面を歩く音が聞こえる。しかも僕の後ろから。僕の足音と多少ずれて聞こえる。
僕は何気なく後ろを振り返った。・・・そこには、
刀を振り上げた黒い塊がいた。
「・・・あぶねぇッ!」
僕はその黒い塊と距離を取った。黒い塊は刀を思い切り地面へと叩きつけ、その拍子に地面から泥水が弾けた。
「刃毀れするだろうが!そんなところ切ったら!」
僕は黒い塊にツッコミを入れた。刀職人としては、できるだけ刀は丁寧に扱って欲しい・・・。って今はそんなどころじゃない!
黒い塊は、まるで影だった。ボワーとしていて、顔の凹凸は無く、体のラインも不明確。しかし、刀を振り上げる腕だけは認識できる。
影は地面へと叩きつけた刀をすぐ定位置に戻し、また僕に斬りかかる。その攻撃は乱雑に刀を振り回しているように感じるが、明らかに首回りや顔など、急所を狙っているようだった。
刀の切先は、僕の鼻のすぐ前を往ったり来たり、襲ってくる。
その時、後ろから足音が聞こえた。
「雪華か?!」
僕は雪華が来ることを期待し、振り返った。しかし・・・
「影が7体もいるじゃねぇかああああ!!」
どうやら足音は影のもののようだ。
しかも影たちはあらゆる武器を持っている。刃物を持っている者もいれば、堅そうな木の棒を持ってる者もいる。
全8体。少し厳しい展開だ。
影たちは狂ったかのごとく武器を振り回す。
僕は背中に挿してある、太刀―炎刀―を抜いた。
「オラァッ!」
キィン!
影が持っている刀と、僕の太刀が激しい金属音を奏でた。
「くッ・・・」
その影はやたら強く、僕を抑え込もうとしている。僕は刀を横にし、攻撃を防ぐだけだ。
すると、後ろに回り込んだ影が僕の腹を木の棒で思い切り殴った。
「ぐあぁっ・・・」
自分の声かと思うくらいに鈍い声が出た。だらしなく開かれた口から唾が飛んだ。
その瞬間、攻撃の反動からか、影の動きが一瞬鈍った。僕はその瞬間を見極め、空高く飛び上がった。


