甘深楽を後にした僕らは帰宅の途へついていた。

「何か厭らしいことでも考えていたのだろう。公然の前で、変な面晒すな。わいせつ物陳列罪に値する」

「なるわけねぇだろ!鼻の下が伸びたくらいで・・・!他の男だって伸びるよ!」

「お前は別だ」

(ひ・・・酷い・・・泣)




そして橋に差し掛かった時だった。

「あれ?神門、神門だよね?!」

僕を呼ぶ声が聞こえた。振り返ると一人の少女が立っていた。

「誰ですか・・・?」

「ひどいッッ!忘れちゃったの?!私のこと・・・」

少女はわざとらしく泣く振りをした。

「お前の元カノか?」

「彼女いない歴=年の数の僕にいるはずがない」

その少女は顔を上げた。

「作間眸だよ!神門と小さいころに遊んだ・・・」

(眸・・・?)

「もしかして僕が幼少の時に遊んでいた、眸?でも僕が5歳くらいの時に、引っ越したよね?」

「そう、丹波の方に。でも、最近戻ってきたの」

眸はとても可愛らしかった。

でも、少し髪の色が違った。昔は黒であった気がする。
今は栗色の髪。

目は昔通り緑だった。

「髪の色、変えた?明るくなった気が・・・」

「あ、うん。江戸に出るってことで、気合入れたの!」

眸は肩にかかるか、かからないかの髪を揺らしながら答えた。

「でも、よく僕が神門ってことがわかったよね。結構長い期間会ってなかったのに」

「えへへ~。黒地に紅の蓮模様の着物来てる人なんて、江戸じゃ神門だけよ!」

緑色の目が僕を見て微笑んだ。

「なつかしいわ~。神門ってば、子供の頃、一人でトイレもいけなかったわよね。私が一緒に行くのを断るとその場で漏らして・・・」

「あわわわわわ!!その話は、その話だけはやめろぉぉぉぉ!!!」

顔を赤らめながら話す眸を、僕は慌てて制止する。振り返ると、引くような目つきで僕を見る雪華がいた。

「ちょ・・・雪華!?子供の頃だよ?しょうがないじゃん、生理的現象じゃん!」

「お前、今でも漏らすだろ」

「堂々と嘘つくなぁぁぁ!!!」

「神門・・・まだお漏らししてるの?」

「してるわけねぇだろ!!!!」