外には江戸の町があった。
いつものなんら、変わらない人口200万の都市がそこにはある。
しかし、この町の中に何人の妖怪が住み、何人の人間がいるのだろうか。
もしかしたら、あそこの角に座る行商人が妖怪かもしれないし、井戸で洗濯をしている奥さんが妖怪かもしれない・・・。
僕はそう思いながら、外を眺めてた。
「えい」
「ぐふッ!」
後頭部に何かが辺り、そのあとすぐに、僕の頭部が埋まった。
「疑心暗鬼に駆られるな」
「ふ・・・ふふいい!っふふいい~~~~!!!(苦しい~)」
洗濯物が僕の口、鼻に栓をしている。死ぬ!
「っぷはぁッ・・・!」
ようやく解放されたころには、僕の顔は真っ赤だった。
「殺す気か!」
「殺さないわよ」
当たり前の答えが返ってきて、僕は拍子抜けした。
「畳むの、手伝ってくれない?家事って、意外と重労働なのよ」
「妖怪が家事辛いとか・・・」
「文句あんの?」
雪華の左手には鋭く光る氷柱が握られていた。しかも表情はマジなやつ。
僕は文句を言いながら、一緒に畳むのを手伝った。
「畳み方汚いわね」
「う・・・」
明らかに雪華と僕とでは、畳み方の違いがあった。雪華はキチンと畳まれているが、僕の畳んだものは少し皺が出ている。
「最初・・・こういうふうに、皺を伸ばすの。そうすると、くしゃくしゃにならないわ」
雪華は少し皺が付いた洗濯物をパン!という音を出し、空気を叩きつけるようにした。すると見事に皺が伸びている。
「ほえー・・・」
僕も真似してやってみる。若干皺は無くなったものの、やはり雪華には到底及ばなかった。
「瓦版だよ~!例の連続怪死事件のことだよ~」
外で瓦版を配っている声がしたのは、洗濯物を畳み終えた時だった。僕は玄関を出て、瓦版をもらい、また家へ入った。
「もしかして・・・。絡新婦がおこした事件のことかしら?」


