「あれは・・・そう、晴朗が亡くなる前日のこと。晴朗がいつものように帰ってきたの。
そして、夕食後・・・高熱が出た。

最初はゴホンゴホンと咳が出た。でも時がたつにつれ、高熱が出てきたの」


その数時間後、晴朗は悶えるように倒れ込んだという。


「水、水・・・って。今でもあの子の声が頭から離れないわ。
そして苦悶の表情を浮かべながら、晴朗は亡くなった。私は晴朗の布団に突っ伏して泣いていたの。
だけど、泣いた後に晴朗の顔を見たら・・・目玉がなかった」



母親は苦い表情をして、ハンカチを目頭に当てた。


「今でも、これは夢じゃないかと思います。特に、目玉が無くなるなんてね・・・。あ、そろそろ私は戻るわ。来てくれてありがとう。じゃあね」

母親はそういい、去っていった。

「難解・・・だな」

雪華は伏せ目がちに呟いた。長い睫に縁どられた紅玉が、凛とした眼光を放っている。

「奇妙にもほどがある。・・・帰ろうか」


僕と雪華は家へ帰った。

家につき、雪華は一口茶を啜った。

「晴朗くんが亡くなった・・・。これだけで、すむものなのかしら」

「どういうことだよ?」

僕はその言葉に対し、前のめりになり雪華に聞いた。

「これだけでは済まないという気がする。絡新婦の件もあるし詳しく言えないが、なにか妖力が加わっているとしか考えられないであろう?」

「・・・妖怪の仕業っていうのか・・・?」

雪華は湯呑を置き、顎に指をつけて話し始めた。

「ああ。死体から綺麗に目玉をとれるやつがいると思うか?それも、その場にいた母親に気付かれずに」

「・・・たしかに、そうだけど・・・」

「ふぅ・・・。まぁ、妖怪のことに過敏になりすぎてはいけない。時には引いて物を見ることも重要だからな」

そういうと雪華は外に干してあった洗濯物を取り込みに行った。

「出しっぱなしかよ・・・」

母さんは出しっぱなしで出かけてしまったらしい。

またか、と思い、ふと外を見る。