「あなたの名前は何?」

ふと呟いた言葉。
名前が分かれば呼びかける事が出来るけれど、それも出来ない。
どんな声をしているのかとか、どんな性格なのかも全く分からない。
他人である私は別に知る必要もないのかもしれないけれど、
何故か家族が来なければ良いと願った。
眠る彼の手を握ったまま、ただただ長い静寂が続いた。
どれだけ時間が経ったか分からなかった。

「………」
「あ、目が覚めたの?」

陽が落ちて1、2時間は経過していたと思う。
漸く彼がうっすらと目を開けた。あちこちに視線を泳がせていた。
自分がどのような状況なのかを把握している最中なのだろうか?
薄く開いていた瞳が急にかっと見開いた。
そして勢い良く起き上がった。だけどすぐに倒れこんだ。

「まだ起き上がれるような状態じゃないんだから」
「こんなことをしている場合じゃないんだっ」

再び彼は起き上がった。
一体何が起こったのか、私には全く分からなかった。
分かったのは彼がとても焦っていると言う事位。