「お嬢さま。お迎えにあがりました」


授業が終わって、校門へ向かうと、その前にロイから声をかけられた。


「あら、校内にいたの……?」

「はい。危険な箇所、危険人物がいないかどうか、念のため確認していたのです」


あたしは、ロイの用意周到さにびっくりした。


「この学校なら安心だって、パパも言ってたけど……」

「人間には、盲点というものが必ずあるのです。それを利用して、お嬢さまに近づいてくるやつが、いないとは言い切れません」

「へー、やるわね。ロイ」

「いえ、プロの常識です。お嬢さま」


あたしは、なんだか嬉しくなって、ロイに首を傾けて、にっこりと笑った。


「ねぇ、ロイ。あたし、ロイにお願いがあるんだけど」

「何でしょうか?」

「その、『お嬢さま』っていうの、やめてくれない? あたし、『杏奈』って呼ばれてるの」

「杏奈さま、ですか」

「杏奈、でいいよ。それから、その堅苦しい口調もやめてほしいな」

「杏奈……。難しいです」

「その、ですます調をやめればいいのよ」

「杏奈……。難しいよ」

「ナイス! それでいいのよ」