困ってるの? 焦っているの?
戸惑っているの? 苦笑してるの?
―…泣いているのかな?
表情を見たわけではないから定かではないけれど、伸一の背中はまるで泣いているみたいにか細かった。
…伸一は、自分の気持ちを言えなくての苦しんでいるのかな。
「…麻木みたいに才能とかあったらさ、堂々と自分の好きなこと選べたんだろうな」
「……」
「麻木見てたらさ、そう思うよ」
顔を上げた伸一の表情は、あたしが想像していたものをすべて含んでいた。
だけどそれを、表には露わにはしない。
苦しくて重たい感情をすべて請け負っているのに、誰にも見せないように隠しているみたいだった。
…なんだかそれは、少し前までの自分に似ていて。
心に残る記憶が、ズキンと音を立てて痛みを作り出す。
ねぇ、伸一。
本当は…――。
「…佐藤君、好きなことはあるんだよね?」
「……っ!」
伸一は虚をつかれたみたいにあたしを見る。
やっぱり、そうなんだ…。



