「…っていうか、俺も麻木みたいに夢が欲しいなー」
「えっ?」
伸一が突然真剣な口調で話し出すものだから、きょとんとした瞳で見る。
「……佐藤君には夢がないの?」
「そう。だから俺は“夢”を持ってるおまえがうらやましい」
伸一はそう言ったかと思うと制服のズボンの右ポケットに手を突っ込む。
そしてすぐにカサッと紙が擦れる音がして、取り出された手には四つ折りにされた紙があった。
「夢も目標もないから、ずっとこれに志望校すら書けてないんだ」
嘲笑しながら伸一が開いた紙は、紛れもなくあたしも同じものを持っている。
相談をする前に見ていた……進路希望調査票だった。
「やりたいことすら何も思いつかないから、ずっと“未定”しか書いてない」
「“未定”って…」
「意外だった?」
「えっ…」
意外かと聞かれて確かにそうだと思ったのも本当で、驚いて何を返せばいいのかも分からなかった。



