……そんなことを考えたら、知らぬ間に心を許していた。
「前に話したこと、覚えてる?あたしの夢が、お母さんに反対されてるってこと」
「おう、覚えてるよ」
「そのことなんだけどね。実はまだ、反対されたままなんだ。
……それで、進路希望調査票のことをどうしようかと思って悩んでたの」
「…そっか。っつうか、なんで麻木のお母さんはピアニストになること反対してんの?
反対するってことは、ちゃんと理由があるだろ?」
事情を話してあると言っても、さすがにお母さんが元ピアニストの“笹川詩織”であることは言っていない。
だから伸一は平然とそんなことを聞いてきた。
お母さんのことだけは……どうしても言えないよ。
「……苦労するのが、目に見えてるからじゃない?
いくら目指しても、ピアニストになれる保障はないし」
「まぁ、それは誰でも思うよな。先が見えないことは不安でもあるから」
「…うん。それはあたしも分かってる」
……だから、複雑なんだ。
あたしの将来を心配してくれるお母さんの気持ちは、分からなくもない。
だけどあたしは、誰かに決められた道を歩くだけでいいのかはよく分からない。



