以前に伸一が小春ちゃんのことを話とくれたあとに「話して」って言ったのは、少しでも伸一の頼りになりたいって思ったから。
幸せそうに笑う伸一を、もっと見ていたいと思った。
その思いを叶えるためには、あたしの気持ちなんて言っちゃいけない。
今の状況で告白なんてしちゃったら、ただ伸一を困らしてしまうことは嫌でも分かる。
だからこそ、告白はしないと決めた。
……そのはず、だった。
「……佐奈?」
「…っ、ごめっ…。何でもない」
音もなく静かに頬を伝った一滴の滴が、本音を顕(あら)わにしていく。
ここは教室。
クラスメートはみんな昼食を食べるのに夢中で誰もこちらを見ている気配はないけれど、急いで流れた滴を拭いさった。
泣いているところを誰かに見られることはおろか、伸一に見られてしまうなんて絶対に嫌だ。
だから唇を噛み締めて堪え、また何もなかったように二人に話しかける。
「ははっ…目にゴミが入ったみたい。もう取れたから大丈夫だよ」
「…そっか。大丈夫?」
――『大丈夫?』
流歌の一言が意味しているものが、あたしの嘘に対して言われたものではないことにはすぐに気付いた。
……あたしの本音なんて、とっくに二人は気付いていたんだよね。



