「小春とは最近一緒に帰ってねぇんだ。ピアノの練習とかで忙しいみたいだからさ。
ここ毎日はあいつ、放課後になるとすぐに帰ってる」


「………」




遠い目をして喋る伸一に、返す言葉が見つからなかった。



伸一は、あたしを見ていない。


視線の先はこの部屋から見えるグラウンドだけど、きっと上の空で見ていないに等しいだろう。



きっと見ているのは……一つに決まってる。




「……そっか。小春ちゃんは有能だから忙しいに決まってるよね」




……これ以上、あたしが関わっちゃいけない。



二人の関係に口出し出来るような権利なんて、あたしにはないんだから。




寂しいんだろうな。

彼のことを、そう思った。



伸一は小春ちゃんのことが大好きなんだって、遠くを見つめたときに改めて感じた。



きっと伸一は今、小春ちゃんと会えなくて寂しいと感じてる。



あたしと過ごすこの時間は…


きっと、その寂しさを埋める偽物でしかない。




「俺はあいつを、応援したい。
だから今は、一緒に帰らないって約束してるんだ」




悲しいはずなのに、伸一はすべてを振り切るように笑った。



――相思相愛。


二人にはきっと、そんな言葉がよく似合う。