きっと、あたしの演奏は微かだろうけど聞こえていたと思う。
あたしもここで待っていたとき、一つ前の受験生の演奏が少しだけ聞こえていたから。
だから小春ちゃんは分かっているはずだ。
あたしがあたしなりにやりきったことを。
そして小春ちゃんも、今から自分らしい演奏をやりきることに覚悟を決めている。
それはお互いの表情から分かることだった。
小春ちゃんが立ち上がりあたしが去ろうとする瞬間、瞳だけでエールを送った。
……小春ちゃんなら、絶対大丈夫だよね。
空白の時間があるあたしとは違って、一途に夢に向かって歩いてきたんだもん。
あたしは小春ちゃんに背中を向けたあと、真っ直ぐ前だけを見て廊下を歩いた。
もう振り返ることも下を向くこともしない。
今はただ、前に進むんだ――。
あたしは控え室に戻ると、ついに最後となった試験に向けて準備をした。
自作の曲を書き記した楽譜を見て、暗譜の最終確認をする。
この楽譜はコピーして事前に東條学園に送ってあるから、試験官の先生達も曲の内容をすでに知っている。
だから課題曲や自由曲と同様に暗譜しておかなければならない。
自分で作った曲とは言え、細かいところはやはり最終確認をしないと不安だった。
何度も手直しをして完成させたせいか、所々手直しをする前のテンポで弾いてしまいそうになることもしばしばあるぐらいだし……。
頭の中で旋律を追いながら、微かに指を動かしてイメージを膨らませる。



