光を背負う、僕ら。―第2楽章―




「だからあの日公園で、噂は嘘だって聞いて分かったときは心底安心した。でもそうしたら麻木が泣き出して……。気が付いたら抱き締めてた。何となく俺のせいで泣いてるのは分かったし、そのせいで麻木に苦しんで欲しくないなって思ったらつい……」




自分でも何であんなことしたのか、よく分かんねぇよ。抱き締めたって、どうにかなるわけでもねぇのに。


恥ずかしそうに顔をそっぽ向けて、伸一はそう付け足した。



耳まで真っ赤にしている横顔を見ていたらあの日のぬくもりを思い出して、あたしも鏡に映したみたいに真っ赤になってしまう。



けど伸一の表情はそのままではなくて、すぐに硬くなってしまった。




「あのときに“ごめん”って言ったのは、理由も言わずに突然抱き締めたからだよ。あと……、俺には麻木の気持ちに応える権利がないって思ったから、謝った」




硬い表情のまま伸一がこちらを向き、張り詰めた緊張を感じることが出来る。



驚くこともなく、その表情をじっと見つめた。


微かにだけど、伸一がそう言うだろうなってことは予想出来ていたんだ。


だからその言葉に対する驚きはほとんどない。



だって伸一は「本当の気持ちに気付いた」とは何度も言うけれど、「好き」という言葉はまだ一度も口にしてくれないのだから……。



伸一の性格を考えると、その大事な部分は言ってくれないのだろうね。




「小春と別れてから、何度も麻木に気持ちを伝えようと思った。公園で会ったときだって、言っても良かったんだ。でも……今はまだ言ったらダメな気がして言えなかった。俺は散々麻木のこと苦しめてきたし、今のまま言ってもきっとまた泣かせるような気がするんだよ。もっと、俺が強くならねぇと……」




自信なさそうに下を向く伸一が遠い。



こんなにも触れられそうなほど近い距離で話しているというのに、まだまだ心は遠いままのような気がした。