「お母さん、嬉しかったのよ?
佐奈が勉強を頑張りだしたから。
急に“放課後図書室に残って勉強してくる”って言い出したのは驚いたけど」
「……っ…!!」
言いかけた言葉はこのせいで引っ込み、何も言えなくなってしまった。
本音を言えない悔しさに、身体全部が震え出す。
そして俯きながら、あたしはまた嘘を重ねて塗り固めたんだ。
「…そうだったね。あたし、頑張るよ」
……お母さんの顔は、もう見れなかった。
それ以上お母さんは話しかけてくることもなく、ただ、本当に嬉しそうにあたしの姿を見つめていた。
娘は無謀な夢を諦めて、勉強に励みだしたと思い込んで――。
「…ごちそうさま」
キリキリと痛む胃の中に無理矢理食事を押し込んだあたしは、お母さんと目を合わせることのないままそそくさと自室に入った。
そして電気をつけることもせずにベッドに顔を埋めて、声を押し殺して泣いた。
弱い自分が悔しくて。
嘘をついた自分が情けなくて。
「……ひっ…っく…」
窓から顔を覗かせる三日月は、学校を出るときに見たものと同じ。
だけどあの時よりも高い位置から見下ろしている細長いそれは、哀れなあたしを笑っている気がした。



