「…美味しいよ」
「そう?なら良かった。せっかく張り切って佐奈が好きなもの作ったのに、何も言ってくれないから不安だったのよ」
恐る恐る発した一言に喜ぶお母さんは、本当に嬉しそうに笑う。
そんな姿はいつもと変わっていなくて、あの違和感は錯覚のように感じてしまう。
……だけど。
「今日はね、頑張ってる佐奈に大サービスよ」
“頑張ってる”の正体が分からなくて、錯覚であってほしいと願う思いは儚く散った。
「…え?頑張るって、何を…?」
声が掠れる。スプーンを持つ手が止まる。
……違和感の正体はもう目の前だ。
「何言ってるの。
……だって佐奈、東條学園を目指すの止めて、爽森高校を目指すことにしたんでしょう?」
笑顔でそう言ったお母さんが遠く感じる。
まるであたしだけ真っ暗な穴の中に落とされたように、すべてが真っ黒に見えた。
『そんなこと、一度も言ってない!!』
そう言おうとしたけど、先に言われたお母さんの一言で、あたしは自分がついた嘘にはめられたことを知る。



