「でも伸一は優しく接してくれたから、あたしはそれに甘えてたの。こんな関係をずるずる続けても良くないのは分かってたけど、離れてほしくなかった。……すごく、好きだったから」
言葉からは、小春ちゃんの伸一を想う気持ちがピリピリとした空気を伝って感じ取れた。
小春ちゃんが瞼を伏せると、長い睫毛が小刻みに震える。
涙が零れるかと思ったけど、そこからは何も出てこなかった。
再び開いた瞼の下には揺るぎない瞳があって、思わず鳥肌が立ったぐらいだ。
……強いね。
小春ちゃんはいつだって自分の足でしっかりと地面を踏み、背筋を真っ直ぐ伸ばして立っているんだ。
その凛とした姿に、伸一が何も思っていなかったわけがない。
あたし、知ってるよ。
伸一がちゃんと、そんな小春ちゃんに惹かれていたこと。
「……佐藤君、言ってたよ。小春ちゃんと一緒に帰れないの寂しいって」
「えっ、伸一が……?」
「うん。あたしが放課後にピアノの練習をしてるときに、佐藤君も一緒にいたことは話したでしょう?そのときに言ってて、一緒にいられないことがすごく寂しそうだった。けど小春ちゃんがピアノの練習のために早く帰ることをちゃんと受け入れて、心の底から応援してた。それって、小春ちゃんが好きだからこそ出来たことだと思うよ?」
「……っ!」
小春ちゃんの瞳が驚いて揺れる。
あたしは伸一と過ごした放課後のことを思い出しながら、言葉を続けた。



