「佐奈ちゃんのおかげで、つらい練習も嫌じゃなくなったんだ。むしろ頑張って上達するのが嬉しくなって、ピアノが大好きになったの。だから、あたしは今もピアノを弾いてる。……全部、佐奈ちゃんのおかげ。だから、本当にありがとう」
小春ちゃんが真っ直ぐあたしと向き合ってお礼を言った。
改まった態度をされるとこそばゆくなって、おろおろと焦ってしまう。
「……そ、そんな、あたし大したこと出来てないよ?」
「ううん。佐奈ちゃんは十分あたしの背中を押してくれたよ。だから、ずっとお礼を言いたかった。けど佐奈ちゃん、再会したときはもうピアノ弾いてなくて……。今までずっと、タイミングを掴めなかったの。それにずっと、信じられなかった。ピアノの楽しさを教えてくれた佐奈ちゃんが、ピアノを弾いていないなんて」
「……」
それを言われてしまうと何も言えなくなってしまう。
ピアノを弾けなかったときのことを思うと、身体にピリピリとした痛みが走った。
「……でも、佐奈ちゃんにも訳があったんだよね。東條学園の体験入学に行ったときに話してくれたことが、その理由なんでしょう?」
「うん。あたしがピアノを弾かなくなったのは、あのときに話したことが理由なの」
喉というよりも口の中が無性に渇いて、久しぶりにマグカップを手にしてココアを飲んだ。
とっくに冷めてしまったそれは、舌の上にしつこい甘さを残していく。



