「……ごめん、覚えてないかも」
「そうだと思ってた。だって佐奈ちゃん、今までそういう素振り見せなかったから。それに覚えてなくても仕方ないよ。このとき幼かったし。それにあたし達ピアノ教室も違えば、幼稚園も小学校も別だったもん」
そう言われてみれば確かにそうだ。
あたし達は住んでる地区が離れてたから、中学生になるまでは全然小春ちゃんの存在を知らなかった。
でも実際はあたしが覚えていないだけで、小春ちゃんはずっとあたしの存在を知っていたんだよね……。
そう考えるといくつか疑問が引っ掛かったけど、それを確かめる前に小春ちゃんが再び口を開く。
「このコンサート、佐奈ちゃんの次があたしの番でね、一緒に舞台袖で待ってたの。その時あたし、すごく不機嫌で。早く終わらないかなーって、ずっとそのことだけを考えてた。……そうしたら、佐奈ちゃんが声を掛けてきたの」
「あたしから?」
ダメだ、全然覚えてない。
しかも人見知りのあたしから声を掛けただなんて、今聞くと信じられないことだ。
「『ピアノ嫌いなの?』って、すごく真っ直ぐな目で見ながら聞かれたの。ピアノが嫌いだってことは誰にも言ったことなかったからすごく驚いた。どれだけピアノの練習をサボろうとしても、お母さんさえそう聞いてきたことなかったのに。同じ年齢の佐奈ちゃんが、見事に気持ちを見抜いてきたの」
一息つくと、寂しげな横顔で小春ちゃんは続けた。



