「……佐奈ちゃんは優しいね」
すべてを話し終えて泣きそうになるのを下唇を噛みしめて堪えていると、頭上から穏やかな声が降ってきた。
もしかすると怒られるかもしれないと思っていたから、その声に半信半疑な気持ちで顔を上げる。
小春ちゃんは、本当に穏やかな表情であたしを見ていた。
でも、ちょっとだけ悲しそうに笑ってから口を開いた。
「佐奈ちゃんはいつだって優しすぎるよ。真っ直ぐで、正直で優しくて……。そういうところも含めて全部、佐奈ちゃんがずっと羨ましかったんだよ?」
「あたしが、羨ましい……?」
そんなこと、信じられない。
小春ちゃんはクラスメイトの中でも中心にいるような人で、勉強もスポーツも難なくこなせるすごい人。
ピアニストの夢だってずっと周りから応援されていて、同じように親がピアニストでもピアノから遠ざからなければいけなかったあたしとは違うその恵まれた状況が、ずっとずっと羨ましかった。
ましてやあたしが一番好きな人の一番好きな人という立場に当てはまっている小春ちゃんを、羨ましく思わなかった日はない。
欲しくてしょうがないものたちを全部持っている小春ちゃんが、何も持っていないあたしを羨ましく思うなんて、そんなこと……。



