「ただいまー」
午後9時30分。
学校での練習を終えて直接塾に向かったあたしは、やっとのことで帰宅した。
「おかえりなさい」
リビングに行くと、お母さんがソファーに座ってテレビを見ているところだった。
「すぐに夕飯温めるから、早く着替えておいで」
「あ……うん」
お母さんは笑顔で立ち上がると、あたしを促してそそくさとキッチンに向かう。
……気のせいかな。
今日のお母さん、いつもより笑顔で優しい気がする。
あたしは違和感を覚えながら部屋に向かい、さっそく着替えて再びリビングに戻る。
その間、ずっと何かが胸に引っ掛かってすっきりしない。
何だろう…。
何かがおかしい。
東條学園に行きたいとお母さんに伝えてから、二人の関係はいつもギクシャクしていた。
気持ちがぶつかり合っているから、それは多少仕方のないことだと思って過ごした。
……だけど、急にどうしたんだろう。
さっきのお母さんには、全く今まで感じてきた対立したオーラが感じられなかった。
本音を言うと、お母さんとは遠慮などしない関係の方が嬉しいけど……。
変化があまりにも急すぎて、不自然すぎるんだよね。
あたしはもやもやとした違和感を感じながら、リビングで食事が出来るのを待った。
……そしてすぐに、違和感の意味を知ることになる。



