「……うん」
まるで何もなかったみたいに感じられるから、さっきまでの会話が夢だったみたいに思える。
だけどこれはあくまでも作られた雰囲気で、錯覚なんかじゃない。
一度(ひとたび)教室に戻れば、あたし達は普通のクラスメートになるんだ。
きっと今までみたいに親しく会話をすることもないんだろうな……。
それは以前では当たり前だったことなのに、こんなにも悲しいなんて。
あたしは思った以上に、真藤君の存在を受け入れてたんだね。
先に歩き出した真藤君の背中を瞼の裏に焼き付ける。
……真藤君に頼らなくても、立派に歩いていける人になろう。
大きな背中を見つめながら、そう心に誓った。
◇◆◇◆◇
ホームルームが始まる直前に教室に入ると、一目散に明日美と流歌が駆け寄ってきた。
勢いに任せて明日美が抱きついてくる。
「もー!心配したんだからね!?」
「あ、明日美、苦しいよ……」
痛いぐらいに抱き締めてくる明日美の背中を叩くと、身体は離れたけど肩を掴んで顔を覗き込まれた。



