「……麻木、顔上げろって」
「……」
しばらくして聞こえたその声は明らかに悲しみを帯びていて、いつもよりトーンが下がっていた。
申し訳ない気持ちで上手く表情を作れないまま、渋々と顔を上げる。
無理をして笑う真藤君が、目だけは優しいままあたしを見下ろしていた。
「…ありがとな。ちゃんと気持ち教えてくれて。正直に応えてくれたから、すっきりした」
さっきとは打って変わった、穏やかな声だった。
あたしを責めない声が『大丈夫だから』と言っているみたいで、こっちが慰められている気分になる。
あたし、そんな立場じゃないのに……。
「……本当はさ、最初から返事なんて分かってるようなもんだった。麻木が伸一のことをどれだけ好きなのかも知ってたし、俺が眼中にないことも分かってたし」
近くの机に腰を預けて、真藤君は俯き加減になって話し始めた。
何も言えないまま、その場に立ち尽くす。



