「…あたしは、佐藤君の幸せを願ってる。二人が幸せそうにしているところを見て、改めてそう思った。
だから……決めたの」
……思い出は、消えない。
だけど、それを過去に変えることは出来る。
ずっと胸の中にしまっておくことだって、きっと可能なはず…。
「…あたしはもう、これ以上何も望まないことにしたんだ」
思い出は、色褪せないまま。
幸せは、ただの記憶として。
――…全部、ここに置いていく。
伸一と二人で過ごしたこの部屋に、綺麗なままで閉じ込める。
いつか笑って思い出せる、そんな過去にしていくために。
「……おまえ、それ本音なわけ?」
瞼を伏せると、真藤君の声がやけに痛く胸に響いた。
真藤君の言葉は、いつだってストレートだ。
真藤君を見ないまま、静かにその声を聞く。
「麻木、言ってたじゃん。伸一のこと、諦めないって。
それなのにあいつが幸せそうにしてるところ、平気で見てられるの?」
「……見られるわけ、ないよ」
そう言って、ゆっくりと顔を上げる。
射るような瞳をする彼に、ぎこちなく微笑みを向けた。



