「…い、言ってないに決まってるでしょう?」
「なんで?あいつ、また来るかもしれないじゃん。この前みたいに……」
「――来るわけないよ」
真藤君の声を掻き消してしまうほどの声が、意外にもあっさりと出た。
口を動かすことを阻まれた真藤君の唇が、ゆっくりと閉じられる。
「来るわけ…ない。だって今日だって、来てないでしょう?」
下校時刻を知らせる時は、もうすぐそこまで来ている。
でも、伸一は来ない。
いつもこの部屋を訪れる時間も、この前メモ用紙を起きに来た時間も。
とっくに過ぎたというのに、彼は来ない。
それが何を意味しているかなんて、考えなくても感じ取ってしまう。
それに……。
「真藤君だって、見たでしょう?今日の放課後、佐藤君と小春ちゃんが一緒に帰っていくところ」
涙が出ることも、胸の痛みを感じることもない。
でも数時間前に見てしまった仲睦まじい二人の姿が目に浮かぶと、現実を知った心が空っぽになった。



