「…今日で、この部屋に来るのは最後にするの。だから部屋への恩返しとして、掃除してたんだよ」
…最後。
改めてそう口にすると、胸に鉛が落ちていくような気がした。
もうここから立ち去らなければいけないのに、体に溜まっていく鉛が重くて動けない。
「部屋に来るのは最後って…。
もしかして、母親に進路のこと許してもらえたのか?」
驚いた声を聞いて、そういえば真藤君にもお母さんとのいざこざのこと話してあったことを思い出した。
「うん。そうなの。日曜日にちょっと色々あって…。その結果、やっとのことで許してもらえたの」
「…そうか。それは良かったな」
真藤君の表情を垣間見ると、安堵しているようだった。
感情を押さえているみたいだけど声が微かに弾んで聞こえて、喜んでいるんだなって分かる。
「ありがとう。
…それでね、もう家で練習出来るようになったんだ。
だから……もうこの部屋ともお別れってわけ」
「なるけど。だからか…。
でも、あいつにはこのこと言ってあるのか?」
「…えっ?」
真藤君が“あいつ”と呼ぶのは一人しかいない。
重くなった体が、動揺で簡単に揺れる。



