『…最後に、あの部屋を借りてもいいですか?』
ピアノのレッスンはお母さんにしてもらうことになったから、もう学校のピアノを借りて練習をする必要はなくなった。
だけど最後に、この部屋を貸してもらったお礼をしたい。
そのお礼として思い付いたのが“掃除”であり、2時間ほどでちょうど今終えたところだ。
鈴木先生は「使っていない部屋だから…」と言って少し掃除を拒んでいたけれど、あたしは「一人でやる」と言い切った。
散々お世話になった旧音楽室。
あたしがこの部屋のピアノを必要としなくなった後、ここに誰かが足を踏み入れることは当分の間ないかもしれない。
それでも、綺麗な状態にしておきたかった。
思い出と一緒で、綺麗なままに……。
一通り部屋を掃除したあたしは、掃除用具をロッカーにしまった。
こんな狭い場所に真藤君と二人で隠れたことが、もうすでに懐かしい。
埃の匂いがあの日の痛い気持ちを呼び起こしてきて、それをねじ伏せるようにロッカーの扉を閉めた。



