「だから、先生も色々と考えてみたの。どうしたら、佐奈ちゃんがピアノを弾けるようになるかなって。
……そうしたらね、一つだけ思い付いたの。
家がダメなら、学校で練習すればいいんだって」



……えっ?


先生はあたしが驚いているのもお構い無しに、次々に話を続けていく。



「もちろん、一番いいのはお家で弾くことよ。でも、それが今は難しい状態。
それなら、学校のピアノで練習が出来るようにしてあげたらいいんだって気付いたの。
だから私、佐奈ちゃんにいつこうやって頼まれてもいいように、先に校長先生の許可も得たわ」


「きょ、許可って…。
そんな…あたしがこんなことを頼むかも分からなかったのに、許可を得ることが出来たんですか?」



頭がもう、ついていけない。


予想外な急展開に、取り残されないようにするだけで精一杯だった。



「えぇ、取れたわ。
誰よりも頑張っている生徒にぜひピアノを貸してください、って頼んだらね。
佐奈ちゃんが東條学園を志望していることもあって、校長先生や他の先生も後押ししようっていう気持ちになってるみたい。
……それに、佐奈ちゃんなら絶対こうやって頼んでくると思った。
いつも大事なところでは、芯を曲げない強い子だから」



先生の優しさに、有り難さに、胸はどんどん熱くなる。



目の前に透明な膜が張って、先生の顔がよく見えなかった。