楽譜はなくても大丈夫だ。
ここ1か月の間、学校では有名な曲からマイナーな曲まで、ありとあらゆる種類の曲を弾いて練習をしてきた。
だから、楽譜なら頭の中に入っている。
それにさっき『好きな曲』と指定された時点で弾こうと決めた曲に、楽譜なんて必要ない。
あの曲なら……“月の光”なら、今はもう身体が覚えている。
音符のこととかを頭でいちいち考えなくたって、指が自然とそれを奏でるんだ。
もしかすると…。
お母さんはそのことを分かっていて、『好きな曲』と言ったのかもしれない。
あたしなら“月の光”を弾くという、期待も込めて。
「…じゃあ、弾きます」
最後に二人に向かって一礼して、自分に強く言い聞かせる。
……大丈夫。
ちゃんと練習はしてきた。
その努力が無駄になるとは思えない。無駄になんてさせない。
……伝えるんだ。
あたしの夢を、あたしの思いを。
優しく切ない、あのメロディーに乗せて。



