「…学園長先生の言うとおりよ。佐奈があの曲を弾いたなんて最初は驚いたけど、すごく嬉しい気持ちもあった。
……覚えてたんだね、私がいつも弾いて聞かせていたこと」
お母さんの声は……震えていた。瞳にうっすらと涙の膜を張って。
「お母さん…」
その姿に誘われるように、あたしの声も震え出す。
お母さんは湧き上がってくる涙を堪えるように、一瞬だけ息を止めてから話し出した。
「もうてっきり、覚えていないと思ってたの。私はあなたの気持ちを無視してピアノを弾くことを禁止させてしまった……。
それに私はピアニストとして、あなたが憧れられるような存在にもなってあげられなかった……。
だからピアノを弾いていた頃の思い出も弾き方も、とっくに嫌な思い出として忘れてると思い込んでいた」
「…っ、そんなことない!」
気が付けば、声を荒げていた。
違う…。
違うんだよ、お母さん。
あたし、ピアノに嫌な思い出なんて一つもないの…。
お母さんは今にも泣きそうな顔をしながらあたしを見ている。
そんなお母さんと、ずっと誰にも言えずに心の内で燻っていた感情を押さえきれなくなったあたしを、学園長は静かに見守っていた。



